父の涙
里帰り最後の日。
荷物を詰めている私。
「やっとこ終わった」と言う私に、
父が、
「荷物の準備なんかしなくていいじゃないか。ここにいればいいのに」と。
若い頃は気づかない。
父ももう80歳を越えて、ケアーハウスのお世話になっている。
実家のそばには妹家族もいるので、実質的には何とかなるのだろうが、心情的に。
わが家族もいろいろ問題ありで、若い頃は逃げ出すことばかり考えていた。
この歳になって初めて気づく。
父だけでなく、母もなのだが。
「5時半過ぎに行くけど、行くとき起こすから」と言ったのに、
朝5時に起きたら、父が既に服着て椅子に座っていて、驚いた。
「起きてたの?起こしてあげたのに」
「5時過ぎに行くって言ってなかったっけ?」
「また来るだろ?」と手を伸ばす。
「また来るから」と手を握り返し、もう私より小さな肩を抱く。
「お母さんも元気でね。また来るし」
言葉も少なく。だって泣けちゃうし。
道に出て、いつまでも手を振っている。
日本に住んでいたって、年に一度も会わない人だっているわけだし、外国暮らしとか距離は関係ないかもしれないけど、やっぱり遠い。
別に私だけじゃなく、こういう人もたくさんいるわけだけど、でも、じいちゃんばあちゃん、孫たちと三世代、近くに暮らしている人たちを見ると、羨ましく思う。飢餓感に悩まされる。